天文ガイド2026年7月号 最優秀作品賞 受賞!【近紫外線・Hα観測でとらえたアンドロメダ銀河の星形成タイムラグ】解説編 [Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observation]

Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observation

『天文ガイド』2026年7月号「読者の天体写真」で、近紫外線(NUV)とHαでとらえたアンドロメダ銀河(M31)の作品が最優秀作品賞を受賞しました!!

「近紫外線・Hα観測でとらえたアンドロメダ銀河の星形成タイムラグ」

月刊 天文ガイド,2026年7月号

“Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy through Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observations”

Grand Prize Winner, Monthly Astronomy Guide (Gekkan Tenmon Guide), July 2026


 本作品は、困難とされる地上からの近紫外線(NUV)によるアンドロメダ銀河M31の撮影に加え、同一光学系でHα像を取得し、両者を比較した点をご評価いただいたものと考えております。また選者からは、アンドロメダ銀河における現在進行中の星形成領域と、過去の星形成の痕跡との対比が比較的明瞭に読み取れる点についても言及をいただきました。

 実は『天文ガイド』の「読者の天体写真」への掲載は今回で2回目。そしてありがたいことに、2回とも最優秀作品賞をいただくことができました。まさか2回連続で最優秀作品賞をいただけるとは思ってもおらず、選者の皆様には心より感謝しています。

 このプロジェクトを思いついたのは2021年。前回、最優秀賞をいただいた水星のナトリウムの尾を撮影していた頃で、完成まで実に約5年を要した、自分史上もっとも長いプロジェクトとなりました。


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和文表記例 ◯◯◯◯:「近紫外線・Hα観測で探るアンドロメダ銀河の星形成タイムラグ」,月刊天文ガイド,2026年7月号,p.140,誠文堂新光社,2026.

in English XXXX. Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observations, Monthly Astronomy Guide  (Gekkan tenmon gaido), July 2026, p.140.

すべての始まりは「近赤外線の反対側」への興味から

 2021年当時、私がハマっていたのは近赤外線撮影でした。都会でも天の川が良く写るので、それはそれは楽しくて仕方がありませんでした。そして近赤外線で天体を撮っているうちに、ふと、

「その対極にある近紫外線では、いったいどんな世界が見えるのだろう?」

と興味を持つようになりました。そんな中で目に留まったのが、NASA が公開していた Swift 衛星 や GALEX 衛星 によるアンドロメダ銀河(M31)の近紫外線画像です。そこに写っていた M31 は、普段見慣れている可視光の姿とはまるで別物でした。


NUV image of M31 by NASA The Neil Gehrels Swift Observatory

 NASA Swift (The Neil Gehrels Swift Observatory) 衛星搭載のUltraviolet/Optical望遠鏡が撮影したアンドロメダ銀河M31 2008年.


NUV image of M31 by NASA JPL-Caltech Galaxy Evolution Explorer(GALEX)

 NASA JPL-CaltechのGalaxy Evolution Explorer(GALEX)衛星の紫外線望遠鏡が捉えたアンドロメダ銀河M31 2003年.


その鮮烈な姿を見たときの衝撃は、今でもよく覚えています。そして気づけば、こう思っていました。

「これ、なんとかして地上から撮れないだろうか!?」

調べてみると、とんでもなく難しいことが分かった

 そこで、近紫外線による天体撮影の事例をいろいろ調べてみました。
すると出てくる作例の多くは、金星の雲模様のような比較的明るい天体ばかり。
アマチュアレベルで星雲や銀河を近紫外線で撮影した例は、私が探した限りではほとんど見当たりませんでした。

「これはアマチュアでは未開拓な分野かもしれない……」


「いや、そもそも無理なのでは……?」

 でも、なぜ難しいのかを調べていくうちに、その理由がはっきり見えてきました。それは、近紫外線で暗い天体を撮るには、いくつもの高いハードルを越えなければならなかったのです。

地上からの近紫外線撮影を難しくする4つ高いハードル

高いハードルは4つにも及びました。

① 大気による吸収
近紫外線は地球大気、特に水蒸気の影響を強く受けるため、地上に届く光は非常に弱くなります。

② 光学系の影響
使う望遠鏡にも大きく左右されます。特に屈折望遠鏡ではレンズ材料による吸収が効いてくるため、できれば反射系の方が有利です。

③ カメラの性能
CMOS センサーそのものの感度だけでなく、各光学部材による減衰も無視できません。

④ フィルターの問題
近紫外線だけを通し、それ以外の光をしっかり遮断できるフィルターが必要です。しかも製品によっては可視光や近赤外線が漏れることがあります。


 このように、近紫外線で銀河や星雲のような淡い天体を撮影するためには、大気・光学系・カメラ・フィルターという4つの条件を同時にクリアしなければなりません。どれか一つでも欠ければ十分な成果は得られず、まさに「四重の壁」とも言える挑戦でした。

 つまり、近紫外線で銀河や星雲のような淡い天体を撮るというのは、「フィルターを替えればOK」というような話ではなく、光学系・カメラ・フィルター・撮影条件がすべて揃ってはじめて成立する、かなり難易度の高い挑戦だったのです。

 とはいえ、ここで諦めるつもりはありませんでした。一つひとつ課題を検証し、試行錯誤を重ねながら解決策を探っていきました。そしてようやく、地上から近紫外線でアンドロメダ銀河を撮影するための環境が整ったのです。※テクニカル情報は、別記事に記載します。

撮影システム:2023年9月18日撮影後の朝焼け。長野県小海町にて

それでも、現実は甘くなかった

 ところが、撮影は最初から順調だったわけではありません。近紫外線の光は想像以上に弱く、最初の頃は露出不足の連続でした。撮影できるのは透明度が高い夜だけ。しかも仕事や家庭の事情から遠征の自由度も高くありません。そのためデータは本当に少しずつしか増えず、

「本当に写るのだろうか……」

と思ったことも一度や二度ではありませんでした。

そして、ふとこんなことを考える時期もありました。

「この試みは、未完成のまま終わってしまうのだろうか……」

ついに地上望遠鏡で捉えた!M31のNUV画像

 撮影を重ねるにつれて、徐々にM31の近紫外線画像が浮かび上がってきました。地上望遠鏡による撮影としては、プロフェッショナルの世界でもアマチュアの世界でも極めて稀な成果となりました。その姿はSwift衛星やGALEX衛星が撮影した近紫外線画像を彷彿とさせるものとなりました。

Near-Ultraviolet Image of the Andromeda Galaxy (M31) Obtained with a Ground-Based Telescope


 NUVの撮影を重ねる中、大きな転機が訪れます。
それは2023年1月号の『天文ガイド』にM.S.さんによる「近紫外線と近赤外線で捉えられたM31」という素晴らしい作品掲載されたのです。

 その作品を見たとき、「自分の目指していた方向は間違っていなかった」と確信すると同時に、大きな刺激を受けました。でも正直な思いは「先を越されてしまった・・・」。このままでは、先行作品の再確認(=追試)で終わってしまうかもしれないとも思いました。

転機は「近紫外線+Hα」という発想だった


 そこで考えたのが、近紫外線画像と Hα 画像を合成するという方法でした。実は以前から、ほかの方が撮影されたM31のHα画像を見るたびに、赤く輝く領域の分布がどこか偏っているように感じていたのです。

「なぜこんな不思議な分布になっているのだろうか?」

 そこで、NUVとHα画像を合成してみることにしました。両者を重ね合わせることで、これまで見えていなかったM31の姿が見えるかもしれないと思ったのです。

実際に、 NUVとHαを重ねてみると、予想以上に面白い違いが見えてきた

天文ガイドに掲載された画像

Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observation

 この画像は、青がNUV、Hαが赤色で、RGB=Hα・NUV・NUV で合成したものです(Hα/UV/UV:HUU合成)。下段は各シングルバンドの画像です。

 
 M31の北側(上の画像では、M31の右側)ではNUVとHαの両方が強く見えるように見えます。一方、南側(M31の左側)ではNUVは明るいのにHαは弱く、同じ銀河の中でも明らかに違った様子をしています。この特徴は、GALEX衛星による紫外線観測やHII領域の研究で知られている傾向とおおむね一致しています[Kang, Y.,2009]。


ここで、NUVとHαが何を見ているのかを簡単に説明しましょう。



 Hα線(656.3nm)は、水素原子の再結合によって生じる赤い輝線で、ごく最近の星形成活動を示す代表的な指標の一つです。Hαで明るい領域は、寿命の短いO型星(および極一部の早期B型星)から放射される強い紫外線によって周囲の水素ガスが電離されている場所で、一般に数百万年(数Myr)〜約1000万年(10 Myr)程度の非常に若い星形成を反映していると考えられています [Kennicutt, R. C., Jr., 2012]。

 一方、NUV(本作品では298~390nm)は、こうしたごく若い星形成領域も含みつつ、それより長い時間幅、つまり、数千万年から数億年(数十〜数百Myr)程度の若い恒星集団、特にB型星を中心とする星からも発せられています  [Kennicutt, R. C., Jr., 2012][Kang, Y., 2009]。

 大ざっぱに言えば、Hαは「今まさに活発な星形成」NUVは「今の星形成も含めた、やや長い時間幅で見た最近の星形成活動」を表している、と考えると分かりやすいと思います。


紫外線とHαで探る星形成の時間差(タイムラグ)


 NUVとHαの合成画像から言えることは、NUVとHαが明るく見える所が一致しておらず、M31の星形成が場所ごとに違うタイミングで進んできたことを示している可能性があるのです[Kennicutt, R. C., Jr., 2012][Kang, Y., 2009]

 これは、星形成の“時間差=タイムラグ”を反映している可能性があると考えています。ここで大切なのは、「O型→B型→A型と順番に変わる」というよりも、星形成後にはさまざまな星が同時に存在し、寿命の違いによって短寿命の星から順に見えなくなっていく、と考える方が実際の状況に近いようです(同時に生まれ、短命な星から消えていく)。

 O型星がいる間はHαもNUVも強く見えますが、O型星が消えるとHαは急激に弱くなり、NUVだけが残って見える状態になります[Kennicutt, R. C., Jr., 2012][Kang, Y., 2009]

 そのため今回のNUVとHαの合成画像では、M31右側の「赤と青が両方強い領域」は現在の星形成、左側の「青が目立つ領域」は少し前の星形成の名残として読むことができます。実際に、紫外線観測はより長い時間スケールの星形成を反映し、Hαとよく対応する傾向が報告されています [Kang, Y., 2009]

Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observation



なぜアンドロメダ銀河の右側にHαが多く、左側に少ないのか?Hα光と近紫外線光の観測結果からの考察。



 ただし、この違いをすべて「星形成の時間差」だけで説明することはできません。

 M31は大きく傾いた円盤銀河なので、ダストによる星間減光や、特に奥側では奥行き方向の重なりの影響で、Hαが弱く見えている可能性もあります。また、星間減光は波長に依存し、ダストによる吸収および散乱(主にミー散乱)によって短波長ほど強くなることが知られており、このような性質はM31におけるHubble宇宙望遠鏡の紫外線観測から得られた減光曲線においても確認されています[Clayton, G. C., 2015]。


 この点を踏まえると、もし左右の違いが主として減光の非対称によるものであれば、NUV/Hαの比にも系統的な変化が現れることが期待されます。


 しかし今回の観測結果では、そのような明確な左右差は必ずしも確認されていません。このことから、星間減光の影響は重要であるものの、左右で大きく異なっているとは考えにくく、単純な減光効果だけではNUVの分布の違いを十分には説明できない可能性があります

 

 一方で、ダストが視線手前にスクリーンのように分布していると仮定すれば、特定の領域におけるHαの弱まり方をうまく説明できる場合があります。また、拡散イオン化ガス(diffuse ionized gas: DIGの広がりや見かけの強度に影響する可能性が指摘されています[Tomičić, N., 2017] こうした見え方の影響も考えられますが、右側でHαが強いのは、最近星がたくさん生まれている場所だからだと考えるのが分かりやすいでしょう。


文献と専門家の助言から見えてきたもの


 星形成のタイムラグについては、元・野辺山宇宙電波観測所所長で国立天文台名誉教授の立松健一先生にも画像をご覧いただき、ご助言をいただきました。先生からは、この傾向は、紫外線観測で示されているアンドロメダ銀河内の星形成史の“場所による違い”と矛盾しない可能性があるとのコメントを頂きました。

実際に文献を見ると、Azimluら [Azimlu, M., 2011]によるカタログ研究では、M31では約3700個ものHII領域が見つかっており、銀河の中で星形成が活発に起きている場所が数多く存在することが分かっています。一方で、渦巻き腕の間の領域では、やや古い星形成の名残と考えられる成分も見られます。さらに、約1500万〜2000万年前(15〜20 Myr)に星形成が一時的に強まった可能性についても議論されています。

では、いったいなぜ星形成に差が出ているように見えるのか?


1)最も基本的な理由は、星が生まれる材料であるガスの分布が銀河内で一様ではないことにあります。ガスが現在多く存在する場所では星形成が活発に起こり(Hαが強く見える)、過去にガスが存在していた場所では、その名残としてNUVだけが残って見えていると考えられます。

2)これに加えて、M32との相互作用のような外的な影響によって、特定の領域でガスが圧縮され、星形成が局所的に活発になった可能性も指摘されています[Block, D. L., 2006]ただし、Hubble宇宙望遠鏡による観測では、M31の代表的なリング構造は少なくとも 約4億年(400 Myr) にわたって安定して存在していることが分かっており、単純な衝突だけで説明するのは難しいとも考えられています[Lewis, A. R., 2015]

3)さらに、星形成は一度起こると、その影響が周囲に広がって新たな星形成を引き起こすこともあり、こうした過程によって時間的・空間的なばらつきが生じる場合もあります。

 このように、今回見えている違いは、単一の原因ではなく、ガス分布・銀河相互作用・星形成の連鎖といった複数の要因が重なって生じている可能性があり、慎重に解釈する必要があります。


 もちろん、この1枚の画像だけで結論を出すことはできません。けれども、地上から同一光学系で撮影した NUVと Hαの比較画像が、アンドロメダ銀河における星形成の歴史を読み解くための一つの手掛かりになったのだとすれば、この5年間の苦労は十分に報われたように思います。

 振り返ってみると、この作品は単に珍しい波長で銀河を撮影しただけのものではありません。私にとっては、「地上から見えにくい光を捉えたい」という好奇心から始まった挑戦であり、アンドロメダ銀河の中で起きている星形成の履歴を、自分なりに読み解こうとした5年間の記録でもあります。

 前回受賞時に掲げた「アカデミックな撮影に挑戦したい」という目標を、今回ひとつの形として実現できたことを、とても嬉しく感じています。もちろん、まだ分からないことはたくさんあります。それでも、自分が見てみたいと思った宇宙の姿を、自分自身の手で捉えることができたことは、大きな喜びです。

さて、次はどんな「見えない光」に挑戦しましょうか。

家族から掲載のお祝いケーキを頂きました。ありがとうございます!


References

Azimlu, M., Marciniak, R. & Barmby, P., A New Catalog of H II Regions in M31, The Astronomical Journal, 142, 139 (2011).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1108.4044


Block, D. L. et al., An almost head-on collision as the origin of two off-centre rings in the Andromeda galaxy, Nature, 443, 832834 (2006).
https://doi.org/10.1038/nature05184


 Clayton, G. C. et al., New ultraviolet extinction curves for interstellar dust in M31, The Astrophysical Journal, 815, 14 (2015).
https://doi.org/10.1088/0004-637X/815/1/14


Kang, Y., Bianchi, L. & Rey, S.-C., An Ultraviolet Study of Star-Forming Regions in M31, The Astrophysical Journal, 703, 614627 (2009).
https://doi.org/10.1088/0004-637X/703/1/614


Kennicutt, R. C., Jr. & Evans, N. J. II, Star Formation in the Milky Way and Nearby Galaxies, Annual Review of Astronomy and Astrophysics, 50, 531608 (2012).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1204.3552


Lewis, A. R. et al., The Panchromatic Hubble Andromeda Treasury XI: The Spatially-Resolved Recent Star Formation History of M31, The Astrophysical Journal, 805, 183 (2015).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1504.03338


Tomičić, N. et al., Attenuation modified by DIG and dust as seen in M31, The Astrophysical Journal, 844, 155 (2017).
https://doi.org/10.3847/1538-4357/aa7b30




補足:近年では、研究機関でも地上から近紫外線観測を行うためのシステムが構築されつつあります。

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