天文ガイド2026年7月号 最優秀作品賞 受賞!【近紫外線・Hα観測でとらえたアンドロメダ銀河の星形成タイムラグ】解説編 [Exploring the Star Formation Time Lag in the Andromeda Galaxy with Ground-Based Near-Ultraviolet and Hα Observation]
『天文ガイド』2026年7月号「読者の天体写真」で、近紫外線(NUV)とHαでとらえたアンドロメダ銀河(M31)の作品が最優秀作品賞を受賞しました!!
「近紫外線・Hα観測でとらえたアンドロメダ銀河の星形成タイムラグ」
月刊 天文ガイド,2026年7月号
すべての始まりは「近赤外線の反対側」への興味から
NASA Swift (The Neil Gehrels Swift Observatory) 衛星搭載のUltraviolet/Optical望遠鏡が撮影したアンドロメダ銀河M31 2008年.
NASA JPL-CaltechのGalaxy Evolution Explorer(GALEX)衛星の紫外線望遠鏡が捉えたアンドロメダ銀河M31 2003年.
調べてみると、とんでもなく難しいことが分かった
すると出てくる作例の多くは、金星の雲模様のような比較的明るい天体ばかり。
アマチュアレベルで星雲や銀河を近紫外線で撮影した例は、私が探した限りではほとんど見当たりませんでした。
でも、なぜ難しいのかを調べていくうちに、その理由がはっきり見えてきました。それは、近紫外線で暗い天体を撮るには、いくつもの高いハードルを越えなければならなかったのです。
地上からの近紫外線撮影を難しくする4つ高いハードル
それでも、現実は甘くなかった
ついに地上望遠鏡で捉えた!M31のNUV画像
転機は「近紫外線+Hα」という発想だった
実際に、 NUVとHαを重ねてみると、予想以上に面白い違いが見えてきた
ここで、NUVとHαが何を見ているのかを簡単に説明しましょう。
ただし、この違いをすべて「星形成の時間差」だけで説明することはできません。
M31は大きく傾いた円盤銀河なので、ダストによる星間減光や、特に奥側では奥行き方向の重なりの影響で、Hαが弱く見えている可能性もあります。また、星間減光は波長に依存し、ダストによる吸収および散乱(主にミー散乱)によって短波長ほど強くなることが知られており、このような性質はM31におけるHubble宇宙望遠鏡の紫外線観測から得られた減光曲線においても確認されています[Clayton, G. C., 2015]。
この点を踏まえると、もし左右の違いが主として減光の非対称によるものであれば、NUV/Hαの比にも系統的な変化が現れることが期待されます。
しかし今回の観測結果では、そのような明確な左右差は必ずしも確認されていません。このことから、星間減光の影響は重要であるものの、左右で大きく異なっているとは考えにくく、単純な減光効果だけではNUVとHαの分布の違いを十分には説明できない可能性があります。
一方で、ダストが視線手前にスクリーンのように分布していると仮定すれば、特定の領域におけるHαの弱まり方をうまく説明できる場合があります。また、拡散イオン化ガス(diffuse ionized gas: DIG)もHαの広がりや見かけの強度に影響する可能性が指摘されています[Tomičić, N., 2017]。
文献と専門家の助言から見えてきたもの
では、いったいなぜ星形成に差が出ているように見えるのか?
さて、次はどんな「見えない光」に挑戦しましょうか。
References
Azimlu, M., Marciniak, R. & Barmby, P., A New Catalog of H II Regions in M31, The Astronomical Journal, 142, 139 (2011).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1108.4044
Block, D. L. et al., An almost head-on collision as the origin of two off-centre rings in the Andromeda galaxy, Nature, 443, 832–834 (2006).
https://doi.org/10.1038/nature05184
Clayton, G. C. et al., New ultraviolet extinction curves for interstellar dust in M31, The Astrophysical Journal, 815, 14 (2015).
https://doi.org/10.1088/0004-637X/815/1/14
Kang, Y., Bianchi, L. & Rey, S.-C., An Ultraviolet Study of Star-Forming Regions in M31, The Astrophysical Journal, 703, 614–627 (2009).
https://doi.org/10.1088/0004-637X/703/1/614
Kennicutt, R. C., Jr. & Evans, N. J. II, Star Formation in the Milky Way and Nearby Galaxies, Annual Review of Astronomy and Astrophysics, 50, 531–608 (2012).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1204.3552
Lewis, A. R. et al., The Panchromatic Hubble Andromeda Treasury XI: The Spatially-Resolved Recent Star Formation History of M31, The Astrophysical Journal, 805, 183 (2015).
https://doi.org/10.48550/arXiv.1504.03338
Tomičić, N. et al., Attenuation modified by DIG and dust as seen in M31, The Astrophysical Journal, 844, 155 (2017).
https://doi.org/10.3847/1538-4357/aa7b30
補足:近年では、研究機関でも地上から近紫外線観測を行うためのシステムが構築されつつあります。
オランダの研究グループ
RASA 36 を改造した地上広視野近紫外線望遠鏡 NUX(Near-Ultraviolet eXplorer) の開発Wijnands, R. et. al., The Near-Ultraviolet Explorer (NUX): a ground-based wide-field near-UV telescope to search for near-UV transients.
https://pure.uva.nl/ws/files/249275712/The_Near-Ultraviolet_Explorer_NUX_.pdf



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コメント
記事中で呼ばれたようなので、やってきました(^.^;
天文ガイド、最優秀おめでとうございます。
そして天体を紫外線で撮影されている方が私以外にもおられたのが、何よりうれしかったです。こんな縛りプレイをしている人なんて、まずいないだろうと思っていたもので記事を熟読してしまいました。
私はUVを減衰させないために、最初はビクセンのR200SSで補正レンズは使わず純粋に反射のみで撮影しましたが、周辺のコマ収差がひどいのに悩まされました。(今ならBXTなどの収差補正ソフトで一発修正できますね)その後はEL-NIKKORなどの引き延ばしレンズを使ってみたりしましたが、やはり反射が一番いいと感じています。
そういえば今年初めくらいに Nikon UV-Nikkor 105mm F/4.5という紫外線撮影専用レンズがヤフオフに出品されていましたが、70万円越えで手が出ませんでした。
カメラの保護ガラスは特注なんですね。私は手っ取り早く外しちゃいましたが、これは結露しやすくなるのでやらないほうがいいです。(今は1.25インチのUVフィルターを保護ガラス代わりに取り付けたりしています)
なにより紫外線とHa線で「星形成の時間的推移」を示す、なんて私ではとても思いつかない発想でした。
私のほうこそ大きな刺激を受けた次第です。今後もご活躍を期待しています。
記事にも書きましたが、M.S.さんの素晴らしい写真が天文ガイドに掲載されたときは、結構ショックを受けていました(^^;;
まさか同じようなチャレンジをされている方がいらっしゃるとは思いませんでしたし。
でも本当に凄く励みになりました。
M.S.さんが使用されたEL-NIKKORは、ご存知の通り近紫外線〜近赤外線まで非常に収差が丁寧に補正されており、透過効率も良いので、主に近赤外線撮影で使っていました。私が使っていたのは50mm F2.8でしたが、これより長い焦点距離のレンズはF値が5.6と暗いため、諦めていました。そのため、M.S.さんの非常に長い露出時間による作例は、本当に凄いなと感じました。
カメラの保護ガラスを取り去られていることは掲載データで存じ上げていましたが、CMOSが空気面に露出してしまうため、流石にそれは真似が出来ないと思いました(^^;; それと、RASA8はバックフォーカスがシビアで調整幅もほとんど無いため、保護ガラスを取ってしまうとフォーカスが合わなくなるので、別の手段を選びました。これは別記事に記載予定です。
「星形成の時間的推移」ですが、M31内のHα光の分布がなぜ偏っているのか?という点からの発想でした。しかし色々調べていくと、M31には考えてもいなかった星形成の歴史があったことが分かり、非常に興味を持ちました。
M.S.さんの作品もそうですが、プロの世界でしか得られなかった画像をアマチュアでも撮れるようになって、色々な研究的アプローチや検証に挑戦できる時代になりましたね。これからもお互いに面白いテーマへ挑戦していければと思います。
今後ともどうぞよろしくお願いします。