MERCURY Sodium Tail 水星のナトリウムの尾 ; 水星にも尾があった! 天文ガイド2021年8月号初入選。まさかの最優秀作品賞受賞!
水星のナトリウムの尾
2020年6月4日Qiсһеng Ζһаng (@aciqra)
Here's Mercury and its sodium tail on June 4 through a 60 mm refractor and a 589.3/1.0 nm bandpass filter. The trailed star to the lower left is HIP 31650. pic.twitter.com/jlbKu5B3Oo
— Qiсһеng Ζһаng (@aciqra) June 14, 2020
2020年11月10日Sebastian Voltmer (@SeVoSpace)
Nov 10, 2020:
— Dr. Sebastian Voltmer (@SeVoSpace) November 15, 2020
That’s not a comet but the tail of our inner planet Mercury ”seen“ from my backyard. This stacked image was exposed through a custom-made Sodium filter. The horizon is from the first exposure.#mercury #spica #yellow #sodium #sodiumtail #spica #astronomy #science pic.twitter.com/vjpK3RAkeA
困った、、撮影情報が全く無い
実は私、水星は数回しか見たことがなく、いままで撮影したことがありません。日没直後の超低空の水星を、しかも未知の尾を撮影するわけですから、様々な困難な状況に直面することになります。
撮影機材は何が必要?
589.3nmのナローバンドフィルター
先駆者お二人の情報から、D1:589.592nm、 D2:588.995nmのナトリウム輝線を選択的に通過させるナローバンドフィルターが必要だということが判りました。すなわち、普段は光害カットフィルターで除去している、我々天体写真家にとって邪魔な光を抽出する必要があります。
まず最も半値全幅が狭いオプトサイエンス社のFWHM 2nmの物を見積もってみると・・・8万円!!こ、これは流石に買えません。。そこで困った時のアリエクスプレス!検索してみると、あるある!しかも価格が59ドル!ただ、納期などを質問してみると、どうもレスポンスがあまりよくありません。アリエクスプレスは以前の取引時にちょっと不安な事があったので、諦めることにし、最終的にエドモンドオプティクス社からフィルターを購入しました。
レンズ
さて、肝心な望遠鏡・望遠レンズは何を使えば良いのでしょうか?Qiсһеngさんの情報によると、使用されたのは「60 mm refractor」 としか記載しておらず、焦点距離がわかりません。F値を6前後と考えると、360mm程度でしょうか。撮影方法は固定撮影?赤道儀??さっぱりわかりません。
いつ撮影するのか?
一回目の撮影
たまたま平日の夕方に時間が取れたので、都内でも西方向低空が望める、以前ω星団を撮影した調布空港の丘へ向かいました。用意した機材はCanon EF70-200mm F2.8L USM + ZWO ASI 294MCPRO。撮影は追尾を行わない固定撮影でした。この時は宵の明星も見えていたため、比較的水星は探しやすく、導入も簡単に行えました。そして結果は・・・・・・・
2021年5月6日19:19 JST. Canon EF70-200mm F2.8L USM + ZWO ASI 294MCPRO。固定撮影。失敗です。尾なんてさっぱり写ってくれません。この時、ひょっとしたら高くて役に立たない買い物(=フィルター)をしてしまったなと、意気消沈してしまいました。。。。
二回目の撮影
一回目の撮影後は、天気が悪く晴れません。この後、水星付近に金星や新月後の細い月が接近してくるため、これらの明るい「光源」をなんとしてでも避ける必要があります。前回の撮影結果から水星の尾は極めて淡く、非常に暗いだろうと予想。撮影には水星の追尾撮影・長時間露光・焦点距離が長い天体望遠鏡が必要になるだろうと考えました。
さらに水星を観測できる地平線付近まで問題なく見れて、安全に望遠鏡を組み立てることができる場所を探さなければならなくなりました。あいにく、私が住む東京都内では、観測に適する場所を見つけることが出来ず、平日に撮影するのはほぼ不可能になりました(前述の調布空港の丘には、小型機材を背負って持っていきましたが、大型機材の搬入は無理でした)。
5月9日日曜日。この日は非常に天気がよく、西空低空の水星は確実に見えると思い、急遽、埼玉県北本市の北本水辺プラザ公園へ遠征しました。ここは以前、部分日食観測で訪れたことがある場所で、地平線付近まで見渡せることができ、さらに埼玉県のほぼど真ん中なので、晴れる確率が非常に高い場所です。埼玉最高。
前回の反省から、今回は赤道儀で追尾撮影することにしました。さらに今日をを逃すと恐らく当分撮影はできないと思い、高橋製作所の口径12cm 3枚玉の屈折式望遠鏡(TSA-120)のガチなシステムで挑みました。
日没前の時点で水星はまだ見えなかったので、接眼レンズを外して太陽を導入し、赤道儀とスカイサファリを同期。その後、金星→水星を自動導入→水星が視野のセンターに入っている事を確認し、日没を待ちました。
金星見えた!
— RYO@天文楽者 (@HDV_blog) May 9, 2021
自動導入は安全ですね! pic.twitter.com/uBICYjvH7I
2021年5月9日19:28 JSTにおける水星の位置
撮影終了!
— RYO@天文楽者 (@HDV_blog) May 9, 2021
やっとやっと成功したかも⁉️
あ!赤い光はこの時期は虫🦗が寄って来ないのよ〜 pic.twitter.com/HZdK7dErRV
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三回目の撮影
第三回目の撮影は水星と金星との接近時に行いました(5月29日)。しかし天気が悪く、さらに水星高度がかなり低く、残念ながら水星の尾と金星とのツーショットは撮影出来ませんでした。この時の写真が以前のエントリー記事です。
センターに水星、中央上の雲の真横に金星が見えています。この時うまく撮影ができれば面白い写真が撮れたのに・・・。
コメント
これは素晴らしいですね!
水星にナトリウムの尾があるのは全く知りませんでした。
Naというと月の大気もそうだったかと。
あとは、木星のイオプラズマトーラスも589nmで写せると思います(これはSII,OIIIでも光っていて、20年くらい前にチャレンジしたことはありますが・・一応、写った、かなぁ???という感じでした・・)ので、ぜひチャレンジしてみてください。
あとは彗星のNaテイルが本当に大彗星だけにしか写らないのか?とかあと惑星状星雲だとHeIがちょうどこの付近の波長帯だったかなと(うろ覚え・・)
589nmもいろいろと使いでがあるフィルターですね。
僕も欲しいなーとは思いつつ、なかなか・・。
お値段で尻込みして見送ってマス・・^^;
シベット先生主催のZOOM会議~赤外探偵団の集結~でお目にかかっております!
Naの対象天体は多くはありませんが色々ありますので、これから少しずつチャレンジしてみたいと思っています。水星の尾に比べると、恐らく非常に困難な撮影になると予想しています。
丁度この写真を撮影した時にC/2020 R4 アトラス彗星もNaバンドで撮影したのですが、殆ど写りませんでしたので、イオンテールが大きく出ているような状況ではないと中々難しいのかと思います。https://twitter.com/HDV_blog/status/1391376608418799616 (これは近赤外線で撮影)