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MERCURY Sodium Tail 水星のナトリウムの尾 ; 水星にも尾があった! 天文ガイド2021年8月号初入選。まさかの最優秀作品賞受賞!

MERCURY sodium tail、水星の尾
MERCURY SODIUM TAIL. 
May 5 , 2021. 10:28:44 UTC by RYO.
Takahashi TSA-120  (D120mm, Fl 900 mm F7.5) + 35 Flattener for TOA and TSA Refractors (880mm, F7.3), ZWO ASI294MCPro, Takahashi EM-100 (K-ASTEC mod). Saitama, JAPAN.


水星のナトリウムの尾

タイトルの「水星」を皆さんご存知のほうき星☆彡の「彗星」の誤変換だと思われるかもしれませんが、今回の写真は「惑星」の方の水星 [Mercury] です。この度、この水星のナトリウムの尾を捉えることに成功し、月刊天文ガイド2021年8月号 最優秀作品に選ばれました!


水星には水素、ヘリウムなどから構成される超希薄大気が存在していることが、惑星探査機マリナー10号以降の観測で判明しました。一方、ナトリウムの大気はPotterとMorganらによって行われた地上からのスペクトル観測で明らかになりました (POTTER A & MORGAN  T: Discovery of Sodium in the Atmosphere of Mercury, Science 229, 651-53. 1985)。なぜナトリウム大気が存在しているのかは、実はまだ判っていないのですが、この大気が太陽風によって惑星表面から放出され、それがまるで彗星の尾の様にみえるらしいのです。そして近年、海外アマチュア天文家が水星の尾を撮影する事に成功しました。これは大変面白い天文現象だと思い、私も撮影してみようと準備を始めました。

2020年6月4日Qiсһеng Ζһаng (@aciqra)

2020年11月10日Sebastian Voltmer (@SeVoSpace)


困った、、撮影情報が全く無い

実は私、水星は数回しか見たことがなく、いままで撮影したことがありません。日没直後の超低空の水星を、しかも未知の尾を撮影するわけですから、様々な困難な状況に直面することになります。

撮影機材は何が必要?

589.3nmのナローバンドフィルター

先駆者お二人の情報から、D1:589.592nm、 D2:588.995nmのナトリウム輝線を選択的に通過させるナローバンドフィルターが必要だということが判りました。すなわち、普段は光害カットフィルターで除去している、我々天体写真家にとって邪魔な光を抽出する必要があります。

まず最も半値全幅が狭いオプトサイエンス社のFWHM 2nmの物を見積もってみると・・・8万円!!こ、これは流石に買えません。。そこで困った時のアリエクスプレス!検索してみると、あるある!しかも価格が59ドル!ただ、納期などを質問してみると、どうもレスポンスがあまりよくありません。アリエクスプレスは以前の取引時にちょっと不安な事があったので、諦めることにし、最終的にエドモンドオプティクス社からフィルターを購入しました。

レンズ

さて、肝心な望遠鏡・望遠レンズは何を使えば良いのでしょうか?Qiсһеngさんの情報によると、使用されたのは「60 mm refractor」 としか記載しておらず、焦点距離がわかりません。F値を6前後と考えると、360mm程度でしょうか。撮影方法は固定撮影?赤道儀??さっぱりわかりません。

いつ撮影するのか?


2021年の春ごろには、夕方に水星が見え始め、東方最大離角の頃は地平高度が大きくなるため撮影しやすいだろうと考えました。しかし!平日の夕方は仕事の関係上、殆ど時間がとれません。さらに低空付近の視界は天気に非常に左右されるため、撮影できるチャンスがありませんでした。

一回目の撮影

たまたま平日の夕方に時間が取れたので、都内でも西方向低空が望める、以前ω星団を撮影した調布空港の丘へ向かいました。用意した機材はCanon EF70-200mm F2.8L USM + ZWO ASI 294MCPRO。撮影は追尾を行わない固定撮影でした。この時は宵の明星も見えていたため、比較的水星は探しやすく、導入も簡単に行えました。そして結果は・・・・・・・

2021年5月6日19:19 JST. Canon EF70-200mm F2.8L USM + ZWO ASI 294MCPRO。固定撮影。

失敗です。尾なんてさっぱり写ってくれません。この時、ひょっとしたら高くて役に立たない買い物(=フィルター)をしてしまったなと、意気消沈してしまいました。。。。

 

二回目の撮影

一回目の撮影後は、天気が悪く晴れません。この後、水星付近に金星や新月後の細い月が接近してくるため、これらの明るい「光源」をなんとしてでも避ける必要があります。前回の撮影結果から水星の尾は極めて淡く、非常に暗いだろうと予想。撮影には水星の追尾撮影・長時間露光・焦点距離が長い天体望遠鏡が必要になるだろうと考えました。

さらに水星を観測できる地平線付近まで問題なく見れて、安全に望遠鏡を組み立てることができる場所を探さなければならなくなりました。あいにく、私が住む東京都内では、観測に適する場所を見つけることが出来ず、平日に撮影するのはほぼ不可能になりました(前述の調布空港の丘には、小型機材を背負って持っていきましたが、大型機材の搬入は無理でした)。

 

5月9日日曜日。この日は非常に天気がよく、西空低空の水星は確実に見えると思い、急遽、埼玉県北本市の北本水辺プラザ公園へ遠征しました。ここは以前、部分日食観測で訪れたことがある場所で、地平線付近まで見渡せることができ、さらに埼玉県のほぼど真ん中なので、晴れる確率が非常に高い場所です。埼玉最高

前回の反省から、今回は赤道儀で追尾撮影することにしました。さらに今日をを逃すと恐らく当分撮影はできないと思い、高橋製作所の口径12cm 3枚玉の屈折式望遠鏡(TSA-120)のガチなシステムで挑みました。

 

日没前の時点で水星はまだ見えなかったので、接眼レンズを外して太陽を導入し、赤道儀とスカイサファリを同期。その後、金星→水星を自動導入→水星が視野のセンターに入っている事を確認し、日没を待ちました。

まだ日のあるうちに望遠鏡を設置完了。この時間は、ところどころに雲が出てきてしまったので、今日も無理かなと思っていました。


いよいよ撮影開始。薄明中はまだまだ空が明るく、露出時間を伸ばせません。水星を撮影しても点状にしか写らず、また失敗か、、、FWHM 10nmだとワイド過ぎてだめなのか・・・・と不安が頭をよぎります。さらに地平線付近の雲が時折水星を遮っていきます。あぁ、、、

2021年5月9日19:28 JSTにおける水星の位置

カメラの設定を変え撮影を継続するも、水星高度がどんどん下がり焦る一方です。

そして大分空が暗くなってきたので、ダメ元で露出時間を長めに撮影すると・・・

モニターに明らかに尾と判る画像が映し出されました!

これは間違いなく水星の尾だ!

ようやく念願の水星の尾を捉えることが出来ました!初めて見る水星の尾は非常に淡いものでしたが、惑星本体から真っ直ぐに放出され、彗星とは似て非なるものでした。


初めて捉えた水星の尾

水星が没した時点で、その時の様子をツイッターにあげています(何を撮影したのかはこちらの懸念があったため明言しませんでした)。


左下のタブレットにはキャプチャー画像が映し出されています。感無量です。ここでビール飲みたかったなぁ(^^)

天文ガイドへ応募

自宅に帰り、画像処理を行いましたが明るいうちに赤道儀をセッティングしたため極軸が正確にあっていなかった事、超低空の為シーイングが非常に悪く、コンポジットできる画像が少なく大変でしたが、なんとか水星の尾を抽出することが出来ました。

当時、水星の尾の写真を撮影し公開していたアマチュア天体写真家は、私が調べた限りでは上記の海外2名のみだったため、これはインパクトがある写真だと思い、憧れだった月刊天文ガイド 読者の天体写真の「ビギナー部門」に応募した所、6月中旬になってから最優秀作品に選ばれた旨のメールを頂き大変驚きました。まさか自分が選ばれるだなんて!!

三回目の撮影

第三回目の撮影は水星と金星との接近時に行いました(5月29日)。しかし天気が悪く、さらに水星高度がかなり低く、残念ながら水星の尾と金星とのツーショットは撮影出来ませんでした。この時の写真が以前のエントリー記事です。

センターに水星、中央上の雲の真横に金星が見えています。この時うまく撮影ができれば面白い写真が撮れたのに・・・。


次回は・・・

今回は極軸を合わせることが出来ず星像が流れてしまったので、極軸を合わせられる明け方の西方最大離角の頃にもう一度撮影してみたいです。

#MERCURY #SodiumTail

コメント

uto30saps さんの投稿…
最優秀おめでとうございます!!
これは素晴らしいですね!
水星にナトリウムの尾があるのは全く知りませんでした。

Naというと月の大気もそうだったかと。
あとは、木星のイオプラズマトーラスも589nmで写せると思います(これはSII,OIIIでも光っていて、20年くらい前にチャレンジしたことはありますが・・一応、写った、かなぁ???という感じでした・・)ので、ぜひチャレンジしてみてください。

あとは彗星のNaテイルが本当に大彗星だけにしか写らないのか?とかあと惑星状星雲だとHeIがちょうどこの付近の波長帯だったかなと(うろ覚え・・)

589nmもいろいろと使いでがあるフィルターですね。
僕も欲しいなーとは思いつつ、なかなか・・。
お値段で尻込みして見送ってマス・・^^;
天文楽者RYO さんの投稿…
UTOさん、コメントありがとうございます!
シベット先生主催のZOOM会議~赤外探偵団の集結~でお目にかかっております!

Naの対象天体は多くはありませんが色々ありますので、これから少しずつチャレンジしてみたいと思っています。水星の尾に比べると、恐らく非常に困難な撮影になると予想しています。

丁度この写真を撮影した時にC/2020 R4 アトラス彗星もNaバンドで撮影したのですが、殆ど写りませんでしたので、イオンテールが大きく出ているような状況ではないと中々難しいのかと思います。https://twitter.com/HDV_blog/status/1391376608418799616 (これは近赤外線で撮影)